会社の昼休み。食事を終えて、デスクで座っていると、私と同期の中島君からLINEが入ってきました。
「先日は脇汗の相談にのってもらってありがとう。実は僕の彼女のことなんだ。
もう付き合って半年くらいになるんだけど。
こないだ突然、自分がわきがだって悩んでいると告白されたんだよね。
全然わきがの匂いがしないのに」
わきがの匂いがしないのに、わきがで悩んでいる。
ふーむ、乗りかかった船だ、相談にのってあげましょう。
私は、中島君に「彼女さんに、私のLINEに友だち登録するように言ってあげて」と返事をしました。
彼女さんの名前はめぐみ。
その夜、さっそくめぐみさんから私あてに「今度、相談にのってもらえませんか」というLINEのメッセージが入りました。
自己臭恐怖症のセルフチェックリスト
中島君の彼女、めぐみさんは、私や中島君と同じ会社で働いている人です。
さっそくランチの約束をしました。
そして当日。めぐみさんと話をすることになりました。






周りの人はみんな私のことを匂うと思っているんです。
私はサラサラとメモ帳に書いて渡しました。
- 耳垢が湿っている
- 白いシャツを着ると脇の下が黄ばむ
- 両親のどちらかがわきがである
そしてめぐみさんに、どれかあてはまるか聞いてみたのです。
すると、どれも当たらないとのこと。
念のため「わきがレーダー(私はわきがなので、他人がわきがかどうか見分けることができるのです)」を使ってみても、反応しません。
そこで言いました。


全然似ていませんけど。
うむ。はっきり言う女性です。
さて、突然ですがここで問題です。めぐみさんがわきがではないのに、わきがだと悩んでいるのはなぜでしょう。
私は「自己臭恐怖症」ではないかと疑いました。
なぜなら、最近かかる人が増加していると聞いたからです。
「自己臭恐怖症」とは、自分から強い体臭を発していて、周りの人がそれを迷惑がっている、と思い込んでしまう、精神的な病気です。
ここに実例があります。
ワキガや多汗症などの治療やカウンセリングを専門的に手がける「五味クリニック」(東京都新宿区)。30人ほどの患者が通院するが、その7割は自己臭恐怖症と診断される。
引用元 産経ニュース
以上のことから、私はめぐみさんが「自己臭恐怖症」ではないかと思ったのです。
「自己臭恐怖症」のセルフチェックリストは次のとおりです。
□自分はクサイと思い込んでしまい、自分の臭いの事が頭から離れない
□相手の仕草が、自分の臭いを避けるものではないかと、疑いやすくなる
□自分の臭いを抑えようと、気になる部位を 一日に何度も洗い続けたり、下着をすぐに替える、消臭剤を過剰使用する……など、強迫的行為が顕著になる
□気持ちが冴えず、日常の大切な事が手につかなくなってしまう
□対人状況を避けるようになってしまう
引用元 All About
自己臭恐怖症の診断
私とめぐみさんの話は続きます。

ウチの会社に『こころの相談室』っていうのがあるでしょ。
一度そこで相談してみたら。


とにかく、聞いてみて。
めぐみさんは狐につままれたような顔をしていましたが、とりあえず納得したようです。
一週間後。私は仕事から帰ってきて、自宅にいました。
スマホのLINEが鳴ります。めぐみさんからです。
「さやかさん、こんばんは。『こころの相談室』行ってきました。カウンセラーさんと話をしました。
その人も私のことを『匂わない』と言い、一度精神科を受診してみるよう勧められました」
翌日のランチタイム。
私はめぐみさんと一緒にご飯を食べることにしました。



街の個人クリニックみたいに行きやすいところもあるから



あまり家族に心配をかけたくないし
私はさっそく、中島君と連絡をとり、事の次第を説明した後で、一緒に精神科のクリニックに行ってもらうように頼みました。
中島君は快く承諾してくれました。
自己臭恐怖症の対応策
自己臭恐怖症の対応策には以下のようなものがあります。
薬物療法
まず精神科医に自分の気持ちを詳しく説明します。それにより、薬物療法が必要と判断される場合があります。
というのは、自己臭恐怖症で治療が必要なほど、精神面のトラブルを抱えていることがあるからです。
たとえば、不安で眠れなくなるといった症状が起こっているかもしれません。
そんな時には、抗不安薬(精神安定薬)として、催眠効果のあるデパスなどを眠る前に飲みます。
一方、軽症で、不安症状がひどくなるのが一時的な場合、抗不安薬を頓服薬として飲みます。
レキソタン、ワイパックスなどがあります。
医師と方法について相談しましょう。
食生活の改善
これは、精神科に行った場合でも、行かない場合でも必要となる事柄なのですが、食生活の改善を行なわなければなりません。
野菜を多くとる、飲酒を避ける(これは薬を飲んでいるときは特に注意が必要です)、栄養のバランスに気をつける、などがあります。
精神科に行っても食事のことを指導してくれる場合は少ないので、自ら意識して行ないましょう。
運動習慣をつける
運動習慣をつけることで、血行をよくして、汗腺の働きを活発化させるということも考えましょう。
汗をかくとかえって匂いがきつくなるのではないかと思われるかもしれませんが、自己臭恐怖症の人はわきがとは違うので、サラサラの汗が出ます。
以上が具体的な対応策です。
その後の展開
私は、めぐみさんが精神科へ行く日程を聞いておいたので、その日の夜になってから、LINEで連絡をとりました。
めぐみさんは、やはり自己臭恐怖症と診断されたとのことでした。
症状がそれほどひどくないので、頓服薬で対応するようにしたこと。
花の香りなど、自然の匂いというものを積極的にかいでみて、心地よい気分になるよう勧められたこと。
そんな話をしてくれました。
~1か月後~
私は、その後めぐみさんがどうなったか、LINEで聞いてみました。
めぐみさんはある会議でのエピソードを紹介してくれました。
会議でとなりの席に座った知らない人が、鼻をすすったので、思いきって「私、匂いますか」と聞いたそうです。
相手はきょとんとして、「え? あなたの匂いじゃないわよ。反対側に座った人の香水がきつかったので、ちょっと鼻をすすっただけ」と答えました。
聞いてみてよかった。
これからはできるだけ自分の匂いにくよくよしないようにします、ということでした。
まとめ
自己臭恐怖症の人は、自分がこころの病気だとは思わないため、精神科を受診するということを思いつきません。
このような場合、親しい人が病気の可能性に気づいて、医師の診断を勧めるよう働きかけることが重要です。
こころの病気の場合、完全に治癒しなくても、日常生活に支障がでなくなるほど回復すれば、「治った」とみなされるのです。
- 体臭を気にする人は、自己臭恐怖症の可能性あり
- 自己臭恐怖症チェックリストで自分の状態を確認
- 必要に応じて精神科の受診も
- 周りの人が気づいてあげることが大切
今回のめぐみさんの場合は、彼氏の中島君に相談したことから話が始まりました。
自分の匂いに悩んでいる人は、信頼できる人に相談をしてみることが大事です。
私は「またひとついいことをした。
ちょっと練習でもしてみるか。いいんです! いぃんです! いぃーんです! うむ。自分で聞いても似てないな」と思いました。